武道バカ一直線 Part.2

 ところで、なぜ武道が必修化されることになったのか?文部科学省のホームページ*1によれば、

武道は、武技、武術などから発生した我が国固有の文化であり、相手の動きに応じて、基本動作や基本となる技を身に付け、相手を攻撃したり相手の技を防御したりすることによって、勝敗を競い合う楽しさや喜びを味わうことができる運動です。また、武道に積極的に取り組むことを通して、武道の伝統的な考え方を理解し、相手を尊重して練習や試合ができるようにすることを重視する運動です。

ということらしい。相手の動きに応じて、相手を攻撃したり相手の技を防御したりすることで、勝敗を競い合う楽しさや喜びを味わえるのは、格闘技全般とテニスにも当てはまるので、数ある運動の中から、武道を採用する明確な理由になるとは思えない。多分、「我が国固有の文化」という点が、武道を採用するにあたっての鍵となる理由なのだろう。
この点については、後ほど取り上げたい。 
 さらに、生徒が武道に積極的に取り組んだとしても、その伝統的な考え方や相手への敬意が身につくかどうかは、謎だ。そもそも、伝統的な考え方をちゃんと定義して黒板に書いてくれなければ、理解のしようがないし、相手を尊重するコツや技法だって、教えてくれなければわからない。「伝統的な考え方というのは、暗黙知のようなものなので、実践や実戦を通してのみ体得できるのである!」と主張する人もいるかもしれない。経験を通じてしか学べないことがあるのは確かなことだと思う。だが、この点についても、後ほど検討することにしたい。
 また、武道によって「伝統的な考え方」や「相手への敬意」が体得できると主張する人は、相撲の八百長野球賭博、それから某柔道選手による性的不祥事、これらの事件が、武道とは無関係であることを証明する必要があるだろう。

 実は、これが、今回のブログを書こうと思った理由なんだけど、柔道連盟の武道必修化についての考えをホームページ*2で読んだとき、僕は、新年早々、膝からがっくりと崩れ落ちそうになった。

近年の子供たちの体力低下、若年層におけるモラルの低下や少年犯罪の増加など、社会情勢の変化を受け、平成18年12月15日、教育基本法が改正され、その第2条(教育の目標)に、「健やかな身体を養うこと」と「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。」が定められました。

主旨としては、先ほどの文部科学省と似たようなことしか書いてないけれど、「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」という柔道の新たな効能が付け加えてある。おそらく、大外刈りで投げられて頭を床に強打すると、「そうだ、他国を尊重しなくちゃ!」と志すようになり、背負い投げで相手を床に叩きつけた瞬間、「国際社会を平和にするぞーッ」とやる気が湧き出し、最終的に、相手に絞められて意識が朦朧としている時に「国際社会のはってn・・・」という態度が身につくのだろう。・・・・・・やっぱり、連盟の方々を含め、柔道よりも論理と常識を学ぶのが最優先事項ではないだろうか?そうじゃないと、他国の文化や制度だって理解できない。
 僕が何ともやりきれない気持ちになった理由は、上述の内容を公表しているのが、柔道に長年従事してきた人たちの組織だということ。長年の経験があるのならば、柔道によって実現可能なことと実現不可能なことくらい理解できていても良いはずなのに、彼らよりも柔道の経験が浅いであろう文科省の人たちと同様の見解を持つに至ってしまったのは、悲しいことだ。

武道が必修化されたことについては、柔道の普及振興につながることとして喜ばしいところですが、柔道の場合、各中学校の現場では、柔道を指導できる教員が少ないのが現状です。したがって、武道の経験がない保健体育教員が柔道の授業を受け持つ場合もこれから多く見られることでしょう。その場合、柔道の特性から、安全面を考慮した指導が最も注意すべき点となります。全日本柔道連盟では、柔道を正しく理解し安全に学習してもらえるよう、指導者養成プロジェクトに「中学校武道必修化」対策チームを設けて、①指導教本・DVDの作成、②指導法の講習会や研修会の実施、③外部指導者活用システムの構築、の3つの柱を立てて検討を行ってきました。

これも引き続き、連盟のホームページからの引用で、さっき引用した箇所から10行ほど下に行った部分の記述だ。僕としては、柔道の普及や繁栄のために長年営まれてきた連盟が、こんなことを書くなんて、ちょっと信じられない。
 何がヒドイって、授業として進めるための十分な準備が整ってないことを認識しているにもかかわらず、必修化が、「柔道の普及振興につながる」と喜んでいる点が一つ。もう一つは、このホームページの文章は、どうやら平成22年に書かれたものらしいんだけど、その時点で必修化まで2年足らずしかないのに、「①指導教本・DVDの作成、②指導法の講習会や研修会の実施、③外部指導者活用システムの構築」が実施可能だと想定しているだけでなく、実施すれば安全面を保証できるようになると思い込んでいるらしい点だ。
 2年間で素人が武道の指導者になれるとしたら驚きだし、仮に、指導者不足の問題は、地元の有段者や審判資格保有者に柔道素人の教員をサポートしてもらうことで解消できたとしても、安全面の重要性を認識していながら、スプリングの補充などといった設備への言及がないというのは、うかつ過ぎる。もちろん、今まさに、全国の中学校では、最新式の武道場の建造・改築が進められている最中かもしれず、僕は、そういった中学校の動向については無知なので、僕の非難は、全くの的外れという可能性もある。