生々しさについて2

トランプ支持者には、白人中流層と白人の低学歴者が多いらしい。これが事実として、ここから有益な情報を引き出せるか否かは、実はそれほど明確ではない。中流層の人々というのは、収入がそこそこで、今や安定を失いつつある人々だと言われる。だとすると、自己評価と他者からの評価との食い違いが、かなり大きな人達かもしれず、社会への不満は強いかもしれない。だからといって、ヒラリーを支持しない理由にはならない。また、低学歴というのは、日本で言えば、中卒や高卒が最終学歴の人々を指し、米国でも意味合いは大きくは違わないことだろう。彼らは、新聞やテレビのニュースを余り見ないらしく、トランプ政権の真実を知らない人々とされてもいる。だが、彼らが仮にヒラリーを支持していたとしても、それは、客観的な情報を根拠とした支持ではないという点は変わらないはずで、事実を知らないからトランプを支持したとは断言できない。誰を指示するにしても、彼らは、候補者の言葉を鵜呑みにすることに変わりはないと言えそうである。それに、低学歴とは、低知能のことではないし、世間知の欠如した人々のことを意味するわけでもない。

私は、米国大統領がトランプであるという事実を恐れているわけではない。もちろん、面倒くさいことになったとは思っているし、彼のせいで私が損をするのは嫌だなあとは思っている。だが、本当の恐怖は、トランプとトランプ支持者に敗北した人々、つまり、「理性的な」人々が、自分達の敗因をつかめていないようであることなのだ。「トランプ支持者は、白人中流層と低学歴者だった」という分析が事実だとしても、この点に着目してしまうこと自体、敗因から目をそらしているかのように、私には見えるのである。

例えば、白人中流層は、非白人に対して差別的であるかもしれない。しかし、「非白人だから」という抽象的な理由で移民を排除することに同意しているのだろうか?これは、非常に複雑な問題なので、ブログで気軽に扱えるものではないのだが、私の考えでは、差別には、大雑把に2種類ある。ひとつは、理念先行の差別であり、もうひとつは、実体験先行の差別である。前者は、「白人だから優れている」「非白人は罪を犯しやすい」などといった、妙な理論を信奉する人々による差別であり、宗教に基づく差別もここに分類できる。後者は、「就職活動でポストを移民と競った結果、敗北した」「自分が解雇された翌日、インド人が自分の後釜に据えられた」といった実体験が根拠であるような差別である。これも、帰納法や標本調査を誤用した結果芽生えた差別意識でしかないかもしれないが、当人にとっては、前者よりも切羽詰った差別意識と言えるだろう。

もともと、差別に合理的な根拠など無いのだが、ここで重要なのは、差別する側の視点であり、差別するようになった経緯である。彼らの差別意識が抽象的な理念に基づくものであれば、抽象的な理念に基づく平等主義を説けば、分かってくれる日が来るかもしれない。しかし、実体験に基づく差別意識に対しては、実体験を引き起こした要因を除去するのでなければ、その意識を変えるのは困難だろう。その実体験に対する彼ら自身の評価が、因果関係を捉え損ねた、非論理的なものだとしても、彼らが職を失う不安や失った敗北感を抱いていることは事実である。差別意識の払拭は難しいかもしれないが、生活不安の要因を取り除く具体案であれば、1つや2つ示せるはずである。実際、大学無償化を提案したサンダースは、かなりの支持を集めた。「理性的な」人々は、彼らの不安や敗北感を誠実に受け止めただろうか?それとも、「世界の抱える問題」という大きくて曖昧な問題に対処することに情熱のほとんどを傾けてしまってはいなかっただろうか?

低学歴層の人々は、確かにニュースを見ないかもしれない。だからといって、自分に都合のいい言葉ばかりを鵜呑みにするのだろうか?彼らが他人の言葉を鵜呑みにする集団であるのなら、彼らの人生は騙され続けた人生だったに違いない。振り込め詐欺で100万円失った一年後に、証券詐欺で50万円失い、夫だと思っていた人は、もう1つ家庭を持っていた、そんな人生だったことだろう。それにも関わらず、他人の言葉を鵜呑みにできるのだとしたら、タフな精神の持ち主である。そんな人々から少なくない支持を得るトランプは、只者ではないに違いない。・・・・・・それにしても、本当に、彼らは、自分に都合の良い言葉ばかりを鵜呑みしてしまったのだろうか?彼らは、そんなにも世間知らずのお人好しだったのだろうか?