「空」想から何かへ

 月に一度の研究会があった。他ゼミの院生と顔を合わせる数少ない機会だ。
 研究会が終わってすぐに、ある先輩院生からマルクスの『資本論』以前の著作が、当時のヨーロッパでどのくらい売れたのか?特に、どの層の人に売れたのか?という質問をされてしまった。
 どうしてそんなことを尋ねるのか問い返してみたら、「いいか このゲロ野郎・・・・・・質問するのはこのオレだ」(by ミスタ)とは言われるはずもなく、ティーチングアシスタントをやっている授業で、学生から質問されたことなのだと教えてくれた。
 はっきり言って、盲点だった。研究書の売れ行きなんて気にしたこともなかった。質問に対してサラリと答えられたら格好良かったのかもしれないけど、結局、わかったら後で伝えるという約束をして別れた。
 『資本論』以前で、最も有名な著作は『経済学批判』だと思うけれど(『共産党宣言』は、パンフレットのようなものなのでとりあえず除外)、初版本は、世界に3冊しかないようなので*1、あまり売れ行きが良くなかったような印象を受けるけれど、初版本の出版された1859年と現代との間には、大きな二つの戦争といくつかの混乱とが挟まっているので、現存する部数から当時の発行部数を推測するのはマズイだろう。
 ただし、『マルクスの「資本論」』(フランシス・ウィーン著、中山元訳、ポプラ社)では、『経済学批判』が出版された時、「友人たちは呆然とした。ドイツの社会主義者のヴィルヘルム・リープクネヒトは、この本ほど失望させられたものはないと語っている。書評もほとんど出なかった」(p.46)という残念な反応ばかりだったということが紹介されているので、この本の内容を信じるならば、売れ行きは悪かったのだろう。でも、具体的に何部売れたのかは分からない。
 他にも、『資本論』以前のマルクスが刊行した著作には、『哲学の貧困』という問題作があるけれど、これに関しては、どれだけ売れたのか、そのヒントすらつかめていない。

【今日の読書】
イエス・キリストの言葉―福音書のメッセージを読み解く』(荒井献著、岩波現代文庫):中村光の漫画を読んだのが原因だと思うのだけど、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」という言葉の意味とか解釈とかが気になり始め、「これだっ!」と手に取ってみた。エキサイティングな答えは得られなかった。

*1:大原社会問題研究所雑誌 No.513/2001.8より