宇宙人のしゅくだい

「地球を、いい星だと思うかい?」と三番目の宇宙人がいった。
「すてきな星よ!美しくって、ゆたかで・・・・・・。」
「だが、地球人は、その星を、放射能でめちゃめちゃにしようとしている。」宇宙人は、するどくいった。
「地球人は、しょっちゅうおたがいににくみあい、戦争をしたり、他人のものをだましとったり、ころしあったりしている。――わたしたち、宇宙人としては、こんなれんちゅうが、科学の進歩によって、宇宙にでてもらっては、こまるのだ。平和な宇宙に、戦争やにくしみをもちこまれてはたまらない。だから、いまのうち、地球をほろぼしてしまおうか、と思っている。――どうだね?」
「ちょっとまって!」ヨシコはさけんだ。
「どうかそんなことしないで!地球の人たちは、ほんとうはみんないい人たちよ。いまは、にくしみあったり、戦争しあったりしているけど、そのうちきっと、心をあわせて、地球を、りっぱなすみよい星にすると思うわ。・・・[中略]・・・だから、おねがい!ほろぼしたりしないで・・・・・・。」
「そうか――。」宇宙人は、うなずいた。



[中略]



「気がついたようです。」とお医者さんはいった。――ヨシコは病院のベッドの上にいた。



[中略]



「わたし、地球をすくったのよ!」ヨシコはとくいになっていった。
「だけど、宇宙人にやくそくしたの。わたしたちがおとなになったとき、戦争のない世の中にしないと、また宇宙人たちが、ほろぼしにくるかもしれないわ。」
「まだあんなことをいって・・・・・・。」とおかあさんは、なみだぐんだ。
「熱のせいだわ。」
「すぐよくなりますよ」とお医者さんはいった。
「こわいゆめも、すぐわすれるでしょう。」

以上、小松左京著『宇宙人のしゅくだい』(講談社青い鳥文庫、昭和56年)より抜粋。下校時にキャトられた女の子のお話で、表題作でもある。
 多分、小学生(低学年)の頃、親に買ってもらって読んだのだと思う。が、どんな経緯で買ってもらったのかも、読んだ時の感想もすっかり忘れてしまった。でも、僕のささやかな読書暦の中でも、かなり初期に読んだ本であり、SF(少しフシギ)系の作品に興味をもつキッカケになった作品だったような気がする。にも関わらず、数ある小松左京作品の中で、僕が読んだことのあるのは、これだけだ。酷い話である。さらに酷いことに、つい最近まで、この作品の著者を星新一だと思っていた。
 訃報を死って、この本を自室の隅っこから引っ張り出してきた。収録されている作品は、どれもショートショートよりもなおショートなものばかり。青い鳥文庫なのだから、子供向けに読み易い短編作品中心なのは当然かもしれない。あるいは、著者が、子供のために短編ばかりを書き下ろしたということなのかもしれない。だから、大人にとっては、読み応えが足りないかもしれないし、そもそも読もうという気持ちにすらならないかもしれないが、表題作以外にも(むしろ表題作以外の方が)、ドキリとさせられる作品がいっぱいである。
 抜粋部分の最後(医者の「こわいゆめも・・・・・・云々」というセリフ)には、著者自身による強調記号(傍点)がつけられている。少女に課された宿題は、宇宙人の宿題そのもののほかに、あと一つ。つまり、宿題を忘れないこと、という宿題も課されているのかもしれない。

【本】
『宇宙人のしゅくだい』(著:小松左京、絵:堤直子、講談社青い鳥文庫)