「ウ」ルトラ・アントワネット

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http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080109/trd0801090253000-n1.htm

「豊かさ」とか「貧しさ」について真剣に論じるのは、単純に物量の話だけで済ませることができないから、厄介この上ない。だから、この話題を気楽に論じたい人にとって、議論の複雑さを回避するためのデウス・エクス・マキナとなるのが、「最悪な状況に置かれた人々を想定する」という方法なのだと思う。
 この「最悪」を想定して何かを批判するという方法は、日常のどんな場面でも使える。例えば、1tトラックに轢かれて瀕死の人に「3tトラックに轢かれた人よりもマシ」と言ってみたり、内定を取り消された学生に向かって「内定がもらえなかった人よりマシ」と言ってみたり、死者6000人を出した大震災について「第二次世界大戦よりはマシ」とコメントしてみたり、秘書が個人献金を虚偽記載してしまった某首相について「某将軍様よりもマシ」とコメントしてみたり。
 言ったところで事が良い方向へと進むわけではないし、人の神経を逆撫ですること確実だけれど、才能もネタも尽きてしまい、もはや紙面を埋めることができないという文筆家にとっては、どんなテーマについてでもそれなりの文字数をかせぐことが出来るので、大変便利な論法なのだろう。
 卒論に悩む学生には、決して推奨できない方法だけど。



【今日の読書】
社会主義』(マックス・ウェーバー著、濱島朗訳、講談社学術文庫)
『中世ヨーロッパの農村の生活』(ジョゼフ・ギース/フランシス・ギース著、青島淑子訳、講談社学術文庫)