「イ」ズ・マネー

 Time is money.
 ベンジャミン・フランクリンが言ったとされる言葉。時間の大切さをマネーに絡めて説いた言葉であり、解釈する人によって、タイムとマネーのどちらに力点を置くのかが微妙に違う。しかし、どちらにしても、単に時間の大切さのみを訴えた言葉ではなく、お金と時間との密接な関係を意味する言葉には違いない。そして、この言葉は、マルキストやウェーバリアンにとって、資本主義の精神を表す言葉として理解されているようだ。
 しかし、フランクリンの業績や生き様を読んでみると、フランクリンとマネーは、どうにも結びつかない。企業して金儲けを始めることくらい、彼の頭脳と人脈を考えるならば、どうってこともないように思うのだが、そうはしなかった。
 好奇心とチャレンジ精神の塊のような彼にとって、おそらく時間は何よりも大切だっただろうけど、その大切な時間をお金と等号で結んだ理由は、彼自身が「時は金なり」と思っていたからではないような気がする。それでは、金と時間をイコールで結んだ理由とは何なのか?
 彼の生きた時代は、アダム・スミスの生きた時代とほぼ重なる(どちらも1790年に死去)。しかも、フランクリンは、ヨーロッパ(イングランドやフランス)へも何度か渡っており、スミスの感じた時代の空気(『国富論』を執筆することになるような空気)を味わっているはずである。そうであるならば、これは単なる憶測なのだけど、マネーあるいは殖財は、当時の人々(フランクリンと交流のあるような層の人々)にとって、重要な存在として君臨し初めていたのであり、人生において何が大切なのかを伝える際には、比喩としてマネーを使うことが、話し手と聞き手両方にとって、分かり易くて便利だったのかもしれない。加えて、フランクリンと交流のあった人々は、時間を無駄にすることの出来る層に属していたはずなので、もしかすると、フランクリンの「Time is money」は、時間をくだらない趣味に費やす友人たちに、時間の貴重さを理解してもらうための言葉だったのかもしれない。今度、フランクリンの自伝をちゃんと読んでみる必要がありそうだ。

【今日の読書】
あずまんが大王 1年生』(あずまきよひこ著、小学館)
生物と無生物のあいだ』(福岡伸一著、講談社現代新書)
『ホワイトカラーは給料ドロボーか?』(門倉貴史著、光文社新書)
【今日の映画】
「ゲット・スマート」