「い」しつなもの

 『メタモルフォーシス*1という本を読んでいる。古代ギリシア周辺の神話やフォークロアに関する物語集だ。ギリシア神話には、イノシシやシカが恐ろしい敵として登場する。ヘラクレスの12の難業にもイノシシとシカは出てくる。これがどうも不思議でならない。
 古代の人にとって(中世の人にとっても)、山や森は異世界だったのだろうし、そこからやってきた動物は、ある意味で呪われた存在(神とか魔物)に近いものだったのかもしれないけれど、筋骨隆々な英雄が、イノシシやシカと戦うシーンをイメージするに、どうも物語としての盛り上がりに欠ける。
 当時の人にとって、野生の動物は縁遠い存在だったのだろうか?古代の都市市民にとっても、現代の都市市民と同じように、野生動物というのは「稀にしか接触しない」もしくは「見たことのない」ものだったのだろうか?もしも、ちょくちょく見かける存在だったのならば、シカやイノシシを英雄の敵としてチョイスしたのでは、物語の聴き手を満足させることは難しかったんじゃないのだろうか?「高校生、修学旅行にて金属バットで鹿を撲殺」という記事を現代人が読んで抱くのと同じような虚脱感を古代の人も抱くんじゃなかろうか?

【今日の漫画】
ルサンチマン』(花沢健吾著、小学館):「ルサンチマン」が正しく理解されている(モヒャ)。

*1:アントーニーヌス・リーベラーリス著、安村典子訳、講談社文芸文庫