無人島のあの人

 ロビンソン・クルーソーは、経済学では登場回数の多い人物だと思う。経済活動を説明するためのもっともシンプルな例として利用されるからだ。
 実は、『ロビンソン漂流記』をしっかりとは読んだことがなかったので、この前、精読とまではいかないけれど読んでみた。それでロビンソンの島での生活が彼の独力で成り立っていたのではないことに気がついた。「気がついた」なんていう書き方は大げさかもしれないし、誰でも気づいていたであろうことなのだが、独力ではないという事実は、結構重要なことだと思う。
 島での生活を成り立たせるために必要とされたナイフや斧やライフル等々は、ロビンソンが、難破した自分たちの船から持ち出したものでしかなく、彼はこれらの道具を使うことではじめて、衣食住の生産と再生産のサイクルを始動させることができたというわけだ。仮に、これらの道具を自分で作ろうとしたならば、目的の道具が完成する前に、彼は疲労や空腹で気を失ってしまうかもしれないし、そうなれば死はもう目前だ。
 だから、ロビンソンのお話は、個人による最もシンプルな経済活動は不可能であることの例にはなるけれど、その逆の例にはならないということだ。