「ズ」レ

 ブームの真偽はともかくとして、『資本論』の超訳本が次々と出版されているのは事実だ。どんな本を買うのも個人の自由だけど、現実を打破するための何らかの解決策を求めて購入しているのだとしたら不幸なことだ。あの本は、ひとつの時代を神の視点で描いて見せたものなので、ある時代のある社会が、どのようにして発生して、どのようにして消えてゆくのか、という時代の流れやカラクリをダイナミックに理解するのには役立つかもしれないし、大局的な歴史物語を好む人にとっては興奮する内容かもしれない。良くも悪くも、マルクスは、やっぱりヘーゲリアンなのだ。
 だから、残念なことだけど、この社会の抱える矛盾に今まさに苦しめられている人たちに対して、何か具体的な救済策を与えるような内容にはなっていない。そういった人たちが読んだならば、思わず「何様のつもりだ!!」と叫びつつ、床に叩きつけたくなるかもしれない。
 本当に困っている人たちのための本ではなく、歴史や社会のカラクリを知りたいと思える程度には余裕のある人たちのための本。そう考えると、この出版祭りを素直に喜ぶことができない。超訳者たち、出版する人、購入する人、それぞれの思惑が見事なまでにすれ違っているような気がしてならないし、仮に、一切すれ違いがなかったとしたら、それはそれで問題だ。


【今週の読書】
『現代の貧困』(岩田正美著、ちくま新書)
『かけがえのないもの』(養老孟司著、新潮文庫)
『カンナ 奥州の覇者』(高田崇史著、講談社NOVELS)

【今週の映画】
「チャイナタウン」
WALL・E
「MS IGLOO2 重力戦線」第2巻