「難」易度を下げた結果

 最近、古典(特に左寄りの作品)を漫画化した文庫本が増えてきた。今日は『資本論』の漫画版を発見して驚いた。内容を噛み砕いて紹介している新書が既に二冊ほど出版されているので、漫画化も当然のなりゆきなのかもしれない。
 漫画版『資本論』の粗筋はといえば、主人公の男が、苦難の末、最終的には大金持ちになるのだけど、虚しさに襲われるというものだった。貧困に喘いでいるのは、労働者よりも作品の方だったみたいだ。
 内容を広く皆に伝えようと漫画化したはずなのに、漫画化そのものが目的になってしまったのかもしれない。目的と手段の逆転――机が逆立ちしている――とは、このことだ*1
 『資本論』という邦訳の問題点は、「論」をつけてしまったことだと思う。『リア王』や『桃太郎』と同じように、『Das Kapital』というタイトルは、物語の主人公の名前だ(と、僕は勝手に思っている)。だから、『資本論』を忠実に漫画化しようとするならば、主人公が人間ではなく観念、という非常にシュールな作品になるだろう。映画『THE MATRIX』がイメージとしては近いかもしれない。

*1:ちなみに、漫画でも良い作品はあるらしい。門井文雄『劇画カルチュア2 資本論』